前回、言葉の発達・獲得のために重要な4つの発達基盤を取り上げました。#子供を愛するパパとママへ お送りするシリーズですが、ちょっと固すぎて読みにくかったでしょうか?
内容は簡単なことなのですが、ついつい論文ベースでまとめていると固い表現になってしまいます。
ママとパパへ、言葉の発達・獲得における4つの発達基盤と月齢に応じた状態まとめ
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さて、前回お約束のように、「具体的なママの行動についてお伝え」しようと思います。
では、早速本日のお題へと参りましょう!!
記事の前提事項
当記事は、以下の森下 葉子(もりした ようこ)の現在文京学院大学准教授の論文を引用しながら、最後に記載の関連文献で補足や私の考えを交えながら構成しています。ご興味がある方は、原文の論文に当たって見ていただければと思います。研究の進歩も早く領域必ずしも今日・本日時点で最新の説と食い違う部分もあり得ることをご了承ください。
特に乳幼児の子育て中のママ・パパに向けて多少なりとも参考になれば、との思いから関連論文や書籍を読んだ内表を記事にしており、ブログとして投稿する頻度が少ないことをお許しください。
「共同注意場面における養育者のかかわり―言語発達の足場づくりに注目して―」文京学院大学人間学部研究紀要 Vol. 19, pp. 41 ~ 46, 2018. 3 森下 葉子氏。森下先生の略歴などの現時点の情報は文京学院大学のリンク先をご確認ください。
子どもの言語発達を支えていること
共同注意
生後 「7 ヶ月から 21 ヶ月頃までの子どもと母親の共同注意場面における母親の言語的かかわりに注目し,その足場づくり機能について分析・考察」されています。
聞きなれない言葉がいきなり出てきちゃった「共同注意」って何?
共同注意とは,「他者と関心を共有する事物や話題へ,注意を向けるように行動を調整する能力」(引用a)(引用b)「生後半年以降の乳児の精神発達を反映する有力な指標で,二項(乳児と他者,乳児と対象物)を基盤にする交流構造から,三項(乳児と対象物と他者)を統合する交流構造への移行を可能にする精神発達が反映されている」(引用c) 発達の重要な指標
もう少し分かりやすく「共同注意」教えて!
「二項関係」「三項関係」も基本用語で理解していると「あぁぁ、なるほどね!」ってなります。前回の冒頭にあげた記事でも説明しています。再度載せておきますね。今のお話の登場人物は、ママやパパなどと 赤ちゃん ですから絞って表現しています。
「ママやパパ」など赤ちゃん自身を守ってくれる養育者と「赤ちゃん」との関係を「二項関係」。また、1対1の世界から「物」を含めた「三項関係」へと広がっていきます。ここでの「物」とは、「有形の物体としての物」だけではなく、風がふいてカーテンが揺れるという「事」であっても良いんです。
そこで、「共同注意」とは。。。。
「ママ」と「赤ちゃん」が 3つ目に登場する「物や事(絵本、おもちゃ、お散歩しているときに出くわす犬、おじいちゃんとか何でもいいです)」に対して「ママ」と「赤ちゃん」が同じように(=共同)注意を向けることです。大人から見ると特別なことではないように感じますが、これができることが凄いんです。これまで、「赤ちゃん」は「ママ」との関係しかなかった「二項関係」でした。そこに、「おもちゃ」という第三者が入ってきて、「ママ」が「おもちゃ」に注意を向けている(単純に見ていると言ってもいいでしょう)それと同じように「赤ちゃん」自身が「ママ」も「おもちゃ」を見ているんだ!って気がついていること
まだまだ言葉が話せない赤ちゃんにとって、その前段階の訓練として、「共同注意」はとても大切な時間です。「共同注意」にも定義はいろいろあるんですが、私たちは研究者じゃないので、現象として理解しておけばいいです。それによれば、
生後 6 ヵ月頃: 「ママ」と「赤ちゃん」が同じところを見ている状態(引用b)
生後 9 ヵ月頃:「ママ」と「赤ちゃん」が単純に同じものを見ているだけでなく,両者がお互いに相手の注意をモニタリングしている状態(引用b) 三項関係が分かってきます。ママの意図を読み取ることが少しすつ出来るようになります。
下図で記載したように、親がクマさんのぬいぐるみを見せながら「クマさんだよ」と言うと、赤ちゃんは、クマさんという生き物のことをママが自分に教えようとしていることに気付くようになります。
「共同注意」は赤ちゃんの言語発達の最初の頃の重要なチカラなんだね
赤ちゃんにとって「共同注意」にはどのような意味があるのか、という観点で分かるともっと理解が深まるかも。
これまで見てきたように、ママの意図を読み取ることができるようになります。・・・・・> ママがどのように考えて、自分(赤ちゃん)に何をしてあげたいのかという気持ちを理解します。これができるようになると、生後12ヶ月くらいの赤ちゃんは、・・・・・・>自分で指差しを行い、ママに注意(見てもらいたい・手元に持ってきてもらいたい・触りたいなど)して欲しいと表現するようんいなります。そして、次に、自分(赤ちゃん)の意図とママの意図(気持ちや考え)は共有できることに気付くようになります。とても大きな変化であり、成長を実感できる赤ちゃんの行動を見ることができますね。コミュニケーションのレベルが高くなっていることをお分かりいただけると思います。
「共同注意」という考え方を通じて赤ちゃんの発達過程がとてもよく分かってきました
共同注意場面における養育者(ママ・パパ)のかかわり
先に結論をお伝えすると、「共同注意場面において,母親が多様にかかわりながら,子どもに自らの意図や状況,モノの特性を伝え,子どもの言語発達を支えていることが示された.」
ママ(養育者)のかかわりにより分類したところ、次の5つのカテゴリーに分類された
チェックリスト
- 注意の対象(物・人)の状況に関する発話
- 子どもの動き・行為に関する発話
- 子どもの発声・発話を真似る,応じる
- 物の名称に関する発話
- 他児の気持ちの代弁
注意の対象(物・人)の状況に関する発話
赤ちゃんが視線を向けて興味・関心を示したモノや他者について,見えるものやその特徴など「見たまま」「ありのまま」を「○○だね」と言及するかかわり方
(7 ヶ月)ガラス戸に顔を近づけ,室外にある通路を人が通っているのを見ている.ママがは 子どもの顔に自分の顔を近づけ,子どもを見ながら,「見えるねー」と声をかける
(10 ヶ月)自分の子どもが、他の子どもが遊んでいるおもちゃをじっと見つめる。他の子どもが使っている手押し車の音を聞き,キョロキョロ辺りを見回す。ママは 自分の子どもの前で小さな車を走らせてみせる。車に気づき,近寄る子どもに、ママは「車だね〜」と言いながら,違う色の車を走らせる。他の子どもの叩くハンマーの音に反応し,音のする方をじっと見る.ママは「なんだろうね、なんの音かな〜」と 自分の子どもと同じ方向を見つめる。
子どもの動き・行為に関する発話
滑り台を降りるときに「するするする~」と言ったりする等,子どもの動きに擬態語をつける発話も見られた.こうした言葉かけは,子どもの行為を承認し楽しい雰囲気を共有することにつながり,子どもの注意を持続させる
(11 ヶ月)箱から取り出したカプラ(下の商品を参照ください)を両手に持ち,カプラ同士をぶつけて音を鳴らす.ママは音に合わせて「トントン」と言う.子どもがカプラを鏡に当てて音を出すと,それに合わせて「ドーン」と言う。(動き等に擬態語をつける)
内容 | 白木KAPLAブロック100ピース |
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原材料 | 白木(フランス海岸松) |
サイズ | 重量:2kg 1ピースのサイズ/厚み:0.8cm 幅:2.4cm 長さ:12cm 木箱サイズ/幅27cm 高さ8cm 奥行27cm |
ブランド | KAPLA(カプラ) / France(フランス) |
備考 | 対象年齢/10ヶ月以上 ※並行輸入の特性上、外箱の一部を黒く塗りつぶしている場合がございます。 |
仕切板から顔を出したり引っ込めたりしている子どもの行為を「いないいないばあ」という遊びに意味づけ,そのあとの遊びにつながっている.また,子どもの玩具を撫でる子どもの行為に合わせて「いいこ,いいこだね」のように解説を加え,行為に意味づける発話が見られた(注意の対象に対する行為を意味づける)
こうしたかかわりにより,子どもは自らの行為と言葉,また行為の意味を関連づけていく.また,渡す―受け取る,隠れる―見つける,なでる―なでられる等の役割交替を含むやりとりを繰り返すことは,その後の言葉でのコミュニケーションの基礎となっている.
(11 ヶ月)ママがカプラを積み上げているのをしばらく見た後、カプラの箱を支えにしてつかまり立ちをし,箱からカプラを取り出すと「はい」とママに渡す.ママは「はい」と受けとると,「わ〜」と声を出して笑う.子どもの笑う姿を見てママも「わ〜」と一緒に笑う。ママが積み上げたカプラを子どもが倒し,それをママが拾いながら片付け始めると,子どももカプラを拾い,「あー」とママに渡そうとする.ママは「ちょーだい,ありがとう」と受けとる。
(9 ヶ月)ハイハイで合わせ鏡のトンネルまで行き,鏡を覗き込む.ママも反対側から一緒に鏡を覗く.突然泣き出した 子どもに対して,ママは「怖かったか,大丈夫,大丈夫」と笑いかける。子どもが泣きながらママの方にハイハイして近づくと「怖くないよー」と言いながら 抱き寄せ,トンネルから離れる。
三角形の合わせ鏡を覗き込むと,自分の顔がどの面にも無数に移る.子どもそれに驚き泣き出したのだろう。その気持ちを推測し,ママは「怖かったね」と言語化している.モノにかかわった時の子どもの表情や発声から子どもの気持ちを察し,「楽しいね」「嬉しいね」「痛かったね」など応じることは,その心情への受容や共感を示すとともに目に見えない感情に名前を付与することでもある(動きや行為に込められた子どもの気持ちを言語化する)
子どもの発声・発話を真似る,応じる
自らが発した言葉に応答してもらうことは,他者に理解されたことの実感につながる
(12 ヶ月)滑り台を這い上がろうとする.ママも同じように「よいしょ,よいしょ」と上り,「ママできたよ」と言う。ママの動きをよく見て真似をして上りきると「上手だね」と褒めてもらう.滑り台を降りて,ハイハイで床を移動しながら「バッバッ」と声を出す.ママは「バ,バ?ん?な〜に?」と発声を繰り返して,子どもの表情を見る.
(14 ヶ月)木製の車の玩具で遊んでいる.ママは隣で見守っている.子どもが「ブーブー」というと「ブーブーだね」と応じる.
物の名称に関する発話
1歳代の後半になると語彙の爆発期と言われるほどに語彙数が増え,モノ・コトと言葉が結びついていく.共同注意場面においても,ママは言葉に出会わせるかのように,互いに注意を向けているモノの名称を意図的に子どもに質問したり提示したりしていた.
(19 ヶ月)ママがお絵かきマットを 子どもの前に置くと,スタンプを押していく.ママは「ちょんちょんって書くの」とスタンプを押してみせる。それを見て 子どもはママの真似をしてポンポンとスタンプを押す。「そうそうそう」とママ。スタンプを何度か押すと,近くの棚にしまってある井形ブロックを手にする。ママは丸のスタンプを 子どもに見せながら「xxxちゃん,これ何?四角?」と声をかける.ママのところへ戻り,スタンプを押してみて「まる」と答える。
別のスタンプを見せて「これは?四角,三角」と N 児にスタンプを見せる.ママを見ているが手元のスタンプを押して「まる!できた!」という。「できた!」と答えると,持っているスタンプを
「早く早く!」と言いながら早く押す。 子どももママの真似をしてスタンプを早く押していく.
他児の気持ちの代弁
他の子どもへ関心を向け,かかわろうとする子どもの気持ちや相手の気持ちを代弁し,子ども同士のかかわりを仲介する姿が見られた。他の子どもがしていることへの興味・関心は 0 歳代から追視や注視等で見られるが,他の子どもの気持ちを代弁するかかわりは,子どもの他の子どもへの接近・接触が多くなる 1 歳以降に多く見られた。相手の意図や気持ちに視点が向かない,理解できない
時期に,他の子どもとのかかわりを介入し調整するママの存在は重要
水遊び場で容器に水を入れてママに渡すと,ママは「ありがとう」と飲むふりをする 。子どもは隣に来た 他の子どもにも水を入れた容器を渡す。ママは「xxx君にもどうぞ」と 子どもが手渡すタイミングで 他の子どもに伝える。容器に水を入れて出す行為を繰り返していると,他の子どもが来て 子どものもっていた容器を取る.ママは「他の子どもが貸してだって」と 子どもに伝える。
まとめ
「共同注意場面において,子どもの興味・関心に気づいた母親は,発話や行為など多様なかかわりで応じています。」多くのママやパパは可愛い赤ちゃん、幼児の姿につられて無意識にこれまで述べてきたことを実行されているのではないかと思います。
一方で、乳幼児もいつも機嫌が良い訳ではなく、泣いたり、ぐずったり、コミュニケーションが取れないことからくるイラダチで子育てを放棄したくなることもあるでしょう。私も何度夜中に泣いて起こされたことか。。。
(引用d)において,7ヶ月頃から子どもが母親の意図を理解しており,母親の応答的なかかわりによってその意図理解がより深まることが示されています。
モノを介したやりとりが繰り返されたり遊びに発展する場面で,子どもが母親の意図を理解している様子がうかがえた、ということです。
表面上は、コミュニケーションが取りにくい乳幼児。
しかし、ちょっとしたママ・パパの関わり方次第で言語発達が促されます。上記事例を参考に5つの視点でお子さんとのかかわりを持ち続けてくださいね。
引用・参考文献
(引用a) Bruner, J. S.(1975) From communication to language. Cognition, 3, 255-287.
(引用b) 「乳児の共同注意関連行動の発達― 二項関係から三項関係への移行プロセスに注目して ―」児山隆史(島根大学大学院教育学研究科発達臨床コース)、樋口和彦(島根大学教育学部心理・発達臨床講座) 三島修治(島根大学教育学部附属教師教育研究センター)
(引用c) 大藪泰(2004)共同注意.川島書店
大藪先生の最新刊
(引用d)“ 共同注意 ” の発達的変化 その3―言語獲得期の相互作用に関する質的検討―,現代教育学部紀要,3, 43–54. 吉田直子(2011)