日本人の「食事摂取基準」は、健康な個人及び集団を対象として、私たち国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示すものです。
一方、「国民健康・栄養調査」は、健康増進法(平成 14 年法律第 103 号)に基づき、国民の身体の状況、栄養素等摂取量及び生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的とするものです。
この2つの基本的な資料を中心に現状と目標を明らかにして、そのギャップを埋めるために、バランスの良い食事を意識することが最も大切だと考えます。
特に、妊婦さん、妊娠を検討されている方に焦点を絞って、不足分を栄養機能食品やサプリメントを含む健康食品で補うことを想定してまとめてみました。
まとめ一覧表
以下の出典の公的機関から出されている各種資料を読み込み、一覧化しました。
出典:厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 、 国民健康・栄養調査(令和元年) より
ビタミン
エネルギー産生栄養素に比べ微量ではあるものの、人体の機能を正常に保つため必要な有機化合物。体内ではほとんど合成することができないため、食物から摂取する必要がある。
人体の機能を正常に保つために必要な有機化合物です。その性質から水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンに分けることができます。
水溶性ビタミンは血液などの体液に溶け込んでいて、余分なものは尿として排出されます。このため体内の量が多くなり過ぎることはあまりないと考えられています。体内のさまざまな代謝に必要な酵素の働きを補っています。ビタミンB群(B1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)、ビタミンCが水溶性ビタミンに当たります。
一方、脂溶性ビタミンは文字通り水に溶けない性質があり、主に脂肪組織や肝臓に貯蔵されます。身体の機能を正常に保つ働きをしていますが、摂りすぎると過剰症を起こすことがあります。ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKがこの脂溶性ビタミンに当たります。
ビタミンは体内でほとんど作ることができないため、食品から摂取する必要があります。
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
ビタミンA
妊婦の付加量
体内で合成できないが、赤ちゃんの発達にとって必須であり、胎盤を経由して母体から赤ちゃんに供給されている。
妊婦のビタミン A 必要量を考える場合には、赤ちゃんへのビタミンA の移行蓄積量を考える必要がある。
37〜40 週の胎児では、肝臓のビタミン A 蓄積量は 1,800µg 程度であるので、この時期の体内ビタミン A 貯蔵量を肝臓蓄積量の 2 倍として、
3,600 µg のビタミン A が妊娠期間中に赤ちゃんに蓄積される 。
母親のビタミン A が最後の3か月でほとんどが蓄積される。
したがって、初期及び中期における付加量を0(ゼロ)とし、後期における推奨量の付加量は 80 µgRAE/日とした。
授乳婦の付加量
母乳中に分泌される量(320 µgRAE/日)を付加することとし.推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 20% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.4 を乗じると 450 µgRAE/日
ビタミンD
摂取量の日間変動が非常に大きく 52)、かつ、総摂取量の8割近くが1種類の食品群である魚介類に由来する(平成 28 年国民健康・栄養調査)という特殊な栄養素である。
また、摂取量の日間変動も極めて大きい。そのために正確な習慣的摂取量を、特に過度な過小申告並びに大きな日間変動の影響を排除した上で、把握することは極めて難しい
妊婦
日照を受ける機会の少ない妊婦では少なくとも7 µg/日以上のビタミン D摂取が必要と考えられる。
しかし、具体的な数値を策定するだけのデータがないことから、適当量の日照を受けることを推奨し、非妊娠時と同じ 8.5 µg を目安量とした
授乳婦
母乳中ビタミン D 濃度に関しては、測定法により大きく異なる値が報告されていることから、母乳への分泌量に基づいて策定することは困難と考え、非授乳時の 18 歳以上の目安量と同じ 8.5 µg/日とした
妊婦・授乳婦(耐容上限量)
妊婦に対して、100 µg/日までの介入を行った研究において、高カルシウム血症を含む健康障害を認めなかったと報告されている 。
また特に、妊婦・授乳婦に高カルシウム血症発症リスクが高いという報告がないことから、成人(妊婦・授乳婦除く)と同じ 100 µg/日を耐容上限量とした
ビタミンE
生体膜を構成する不飽和脂肪酸あるいは他の成分を酸化障害から防御するために、細胞膜のリン脂質二重層内に局在する。
動物におけるビタミン E 欠乏実験では、不妊以外に、脳軟化症、肝臓壊死、腎障害、溶血性貧血、筋ジストロフィーなどの症状を呈する。
過剰症としては、出血傾向が上昇する。通常の食品からの摂取において、ビタミン E 欠乏症や過剰症は発症しない。
妊婦
妊娠中には血中脂質の上昇が見られ、それとともに血中α─トコフェロール濃度も上昇する 。
妊娠中のビタミン E 欠乏に関する報告はこれまでない。
したがって、非妊娠時と同様、平成 28 年の国民健康・栄養調査から算出された妊婦のビタミン E 摂取量の中央値(6.4 mg/日)を参考にし、6.5 mg/日を目安量とした。
授乳婦
赤ちゃんの発育に問題ないと想定される平成 28 年の国民健康・栄養調査から算出された授乳婦のビタミン E 摂取量の中央値(6.6 mg/日)を参考にし、7.0 mg/日を目安量とした。
ビタミンK
肝臓において血液凝固因子を活性化し、血液の凝固を促進するビタミンとして見いだされた。
肝臓以外にもビタミン K 依存性に骨に存在するたんぱく質を活性化し、骨形成を調節すること、さらに、ビタミン K 依存性たんぱく質 の活性化を介して動脈の石灰化を抑制することも重要な生理作用である。
ビタミン K が欠乏すると、血液凝固が遅延する。通常の食生活では、ビタミン K 欠乏症は発症しない。
妊婦
周産期におけるビタミン K の必要量を詳細に検討した資料は極めて乏しい。
これまでに、妊娠によって母体のビタミン K 必要量が増加したり、母体の血中ビタミン K 濃度が変化したりすることは認められていない。
また、妊婦でビタミン K の欠乏症状が現れることもない。
ビタミン K は胎盤を通過しにくく、このため妊婦のビタミン K 摂取が胎児あるいは出生直後の新生児におけるビタミン K の栄養状態に大きく影響することはない。
したがって、妊婦と非妊婦でビタミン K の必要量に本質的に差異はなく、同年齢の目安量を満たす限り、妊婦におけるビタミン K の不足は想定できない。
以上のことから、妊婦の目安量は非妊娠時の目安量と同様に 150 µg/日とした。
授乳婦
授乳中には、乳児への影響を考慮して、授乳婦に対するビタミン K の目安量を算出した方がよいと考えられる。
しかし、授乳婦においてビタミン K が特に不足するという報告が見当たらないため、非授乳時の目安量と同様に 150 µg/日とした。
ビタミンB1
欠乏により、神経炎や脳組織への障害が生じる。ビタミン B1 欠乏症は、脚気とウェルニッケ─コルサコフ症候群(脳の奥のほうの部位(脳幹部)に微小な出血が起こり、細かい眼の振るえ(眼振)が目の動きに制限が出る(眼球運動障害)、意識障害などの精神状態の変化、ふらつき(失調性歩行)といった様々な症状が急激に出現)がある。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊婦の付加量を要因加算法で算定するデータはないため、ビタミン B1 がエネルギー要求量に応じて増大するという代謝特性から算定。
これらの算定値はあくまでも妊婦のエネルギー要求量の増大に基づいた数値であり、妊娠期は個々人によりエネルギー要求量が著しく異なる。
妊娠期は特に代謝が亢進される時期であることから、妊娠後期で算定された値を丸めた 0.2 mg/日を、妊娠期を通じたビタミン B1 の推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.244 mg/日(0.203 mg/日×1.2=0.244)となるが、丸め処理を行って 0.2 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中のビタミン B1 濃度(0.13mg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、相対生体利用率 60% を考慮して算出し、丸め処理を行って 0.2 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.203 mg/日となり、丸め処理を行って 0.2 mg/日とした。
ビタミンB2
補酵素 としてエネルギー代謝や物質代謝に関与している。
エネルギー代謝に関わっているので、ビタミン B2が欠乏すると、成長抑制を引き起こす。
また、欠乏により、口内炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎などが起こる。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊婦の付加量を要因加算法で算定するデータはないため、ビタミン B2 がエネルギー要求量に応じて増大するという代謝特性から算定。
算定値はあくまでも妊婦のエネルギー要求量の増大に基づいた数値であり、妊娠期は、個々人によるエネルギー要求量が著しく異なる。
妊娠期は、特に代謝が亢進される時期であることから、妊娠後期で算定された値が妊娠期を通じた必要量とした。
したがって、妊婦の推定平均必要量の付加量は、妊娠後期のエネルギー要求量の増大から算定された 0.23mg/日を丸め処理した 0.2 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.27 mg/日となり、丸め処理を行い、0.3 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中のビタミン B2 濃度(0.40 mg/L)にお乳の量(0.78 L/日を乗じ、相対生体利用率 60% を考慮して算出と0.52 mg/日となり、丸め処理を行って 0.5 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.62 mg/日となり、丸め処理を行って 0.6mg/日とした。
ナイアシン
DNA の修復、合成、細胞分化に関わっている。ナイアシンが欠乏すると、ナイアシン欠乏症(ペラグラ)が発症する。
ペラグラの主症状は、皮膚炎、下痢、精神神経症状である。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊婦の付加量を要因加算法で算定するデータはない。
ナイアシン必要量がエネルギー要求量に応じて増大するという代謝特性を考慮し、エネルギー付加量に基づいて算定する方法が考えられるが、妊婦では、トリプトファン─ ニコチンアミド転換率が非妊娠時に比べて増大 30)するため、エネルギー要求量の増大に伴う必要量の増大をまかなっている。したがって、付加量は設定しなかった。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦にはお乳の量を補う量の付加が必要である。
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中のナイアシン濃度(2.0 mg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、相対生体利用率 60% を考慮して算出すると 2.6 mg/日となり、丸め処理を行って3 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 3.1 mg/日となり、丸め処理を行って3 mg/日とした。
妊婦・授乳婦(耐容上限量)
十分な報告がないため、耐容上限量は設定しなかった。
ビタミンB6
ビタミン B6 は、免疫系の維持にも重要である。
ビタミン B6 の欠乏により、ペラグラ様症候群、脂漏性皮膚炎、舌炎、口角症、リンパ球減少症が起こり、成人では、うつ状態、錯乱、脳波異常、痙攣発作が起こる。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
ビタミン B6 の付加量は、胎盤や胎児に必要な体たんぱく質の蓄積を考慮して設定。
あくまでも妊婦のたんぱく質要求量の増大に基づいて設定した数値であり、妊娠期は個々人によるたんぱく質要求量が著しく異なる。
妊娠期は特に代謝が亢進される時期であることから、妊娠後期で算定された値を、妊娠期を通じた必要量とした。
以上により、妊婦のビタミン B6 の推定平均必要量の付加量は、妊娠後期のたんぱく質要求量の増大から算定された 0.156 mg/日を丸め処理した 0.2 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.187 mg/日となり、丸め処理を行って 0.2 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中のビタミン B6 濃度(0.25 mg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、相対生体利用率(73%)を考慮して算出、丸め処理を行って 0.3 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.32 mg/日となり、丸め処理を行って0.3 mg/日とした。
妊婦・授乳婦(耐容上限量)
十分な報告がないため、耐容上限量は設定しなかった。
ビタミンB12
アミノ酸(バリン、イソロイシン、トレオニン)の代謝に関与。
ビタミン B12 の欠乏により、巨赤芽球性貧血、脊髄及び脳の白質障害、末梢神経障害が起こる。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
赤ちゃんの肝臓中のビタミン B12 量から推定して、赤ちゃんは平均 0.1〜0.2 µg/日のビタミン B12 を蓄積する。
そこで、妊婦に対する付加量として、中間値の 0.15 µg/日を採用し、吸収率(50%)を考慮して、0.3 µg/日を推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.36 µg/日となり、丸め処理を行って 0.4 µg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中の濃度(0.45 µg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、吸収率(50%)を考慮して算出(0.45 µg/L×0.78 L/日÷0.5)すると0.702 µg/日となり、丸め処理を行って 0.7 µg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 0.84 µg/日となり、丸め処理を行って 0.8 µg/日とした。
葉酸
狭義には、p- アミノ安息香酸にプテリン環が結合し、もう一方にグルタミン酸が結合した構造を持つ。
これは自然界には稀にしか存在せず、我々が摂取するのはサプリメントや葉酸の強化食品など、通常の食品以外の食品に含まれるものに限られ、人為的に合成されたものである。
以下、これを「狭義の葉酸」と呼ぶ。
一方、食品中には異なる構造を持った誘導体が複数存在し、ポリグルタミン酸型として存在する。
これら食品中に存在する葉酸をまとめて、以下、「食事性葉酸」と呼ぶ。
日本食品標準成分表 2015 年版(七訂)は、葉酸(食事性葉酸)の含有量を狭義の葉酸の重量として記載している。そこで、食事摂取基準でも狭義の葉酸の重量で設定した。
葉酸は、DNA や RNA の合成に関与しているため、細胞の増殖と深い関係にある。
葉酸の欠乏症は、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12 欠乏症によるものと鑑別できない)である。また、葉酸の不足は、動脈硬化の引き金等になる血清ホモシステイン値を高くする。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊娠時(中期及び後期)は、葉酸の分解及び排泄が促進されるとする報告がある。
また、通常の適正な食事摂取下で 100 µg/日の狭義の葉酸を補足すると、妊婦の赤血球中葉酸濃度を適正量に維持することができたとする報告がある 。
これらから、100 µg/日を採用し、上述の相対生体利用率(50%)を考慮して、200 µg/日を妊婦(中期及び後期)の推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は推奨量算定係数 1.2 を乗じて、240 µg/日とした。妊婦(初期)にはこの付加量は適用しないので、注意を要する。
妊婦(初期)は、胎児の神経管閉鎖障害の発症を予防しなければならない。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中の葉酸濃度(54 µg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、相対生体利用率(50%)を考慮して算定(54 µg/L×0.78 L/日÷0.5)すると 84 µg/日となり、丸め処理を行って 80 µg/日とした。
推奨量の付加量は推奨量算定係数1.2 を乗じると 101 µg/日となり、丸め処理を行って 100 µg/日とした。
耐容上限量の策定方法
食事性葉酸の過剰摂取による健康障害の報告は存在しない。
したがって、食事性葉酸に対しては耐容上限量を設定しないこととした。
一方、狭義の葉酸(非天然型のプテロイルモノグルタミン酸)を摂取すると、次に記す理由によって、過剰に摂取すれば健康障害を引き起こし得ると考えられる。
そこで、葉酸のサプリメントや葉酸が強化された食品から摂取された葉酸(狭義の葉酸)に限り、狭義の葉酸の重量として耐容上限量を設定した。
葉酸とビタミン B12 はともに DNA 合成に関与する。
そして、葉酸の欠乏症も巨赤芽球性貧血でビタミン B12 欠乏症によるものと鑑別できない。
そのために、悪性貧血の患者に狭義の葉酸が多量に投与され、神経症状が発現したり悪化したりした症例報告が多数存在する。
これはアメリカ・カナダの食事摂取基準にまとめられている 。したがって、耐容上限量が存在するものと考えられる
パントテン酸
構成成分として、糖及び脂肪酸代謝に関わっている。
パントテン酸は、ギリシャ語で「どこにでもある酸」という意味で、広く食品に存在するため、ヒトでの欠乏症は稀である。
パントテン酸が不足すると、細胞内のCoA濃度が低下するため、成長停止や副腎傷害、手や足のしびれと灼熱感、頭痛、疲労、不眠、胃不快感を伴う食欲不振などが起こる。
妊婦(目安量)
妊婦のパントテン酸の摂取量は、平均値±標準偏差が 5.5±1.3/日、中央値が 5.3 mg/日となる。この中央値を丸めた 5 mg/日を妊婦の目安量とした。
授乳婦(目安量)
授乳婦のパントテン酸の摂取量は,平均値±標準偏差が 6.2±1.6mg/日、中央値が 5.9 mg/日となる。この中央値を丸めた6 mg/日を授乳婦の目安量とした。
ビオチン
ビオチンは、ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素であるため、欠乏すると乳酸アシドーシスなどの障害が起きる。
ビオチンは、抗炎症物質を生成することによってアレルギー症状を緩和する作用がある。
ビオチン欠乏症は、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症だけではなく、1型及び2型の糖尿病にも関与している。
ビオチンが欠乏すると、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂うつ感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなどが惹起される。
妊婦(目安量)
妊娠後期に尿中のビオチン排泄量及び血清ビオチン量の低下やビオチン酵素が関わる有機酸の増加が報告されていることから、妊娠はビオチンの要求量を増大させるものと考えられる。
しかし、胎児の発育に問題ないとされる日本人妊婦の目安量を設定するのに十分な摂取量データがないことから、非妊娠時の目安量を適用することとした。
授乳婦(目安量)
授乳婦の目安量は、非授乳婦と授乳婦のビオチン摂取量の比較から算定すべきであるが、そのような報告は見当たらない。そこで、非授乳時の目安量を適用することとした。
ビタミンC
ビタミン C は、皮膚や細胞のコラーゲンの合成に必須である。ビタミン C が欠乏すると、コラーゲン合成ができないので血管がもろくなり出血傾向となり、壊血病となる。
壊血病の症状は、疲労倦怠、いらいらする、顔色が悪い、皮下や歯茎からの出血、貧血、筋肉減少、心臓障害、呼吸困難などである。
また、ビタミン C は、抗酸化作用があり、生体内でビタミン E と協力して活性酸素を消去して細胞を保護している。
種々の疾病発症に対するビタミン C サプリメントの有益な効果はいまだ明確になっていない
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊婦の付加量に関する明確なデータはないが、7 mg/日程度のビタミン C の付加で新生児の壊血病を防ぐことができたということから、推定平均必要量の付加量は 10 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じると 12 mg/日となり、丸め処理を行って 10 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、母乳中のビタミン C 濃度(50 mg/L)にお乳の量(0.78 L/日)を乗じ、相対生体利用率(100%)を考慮して算定(50 mg/L×0.78 L/日÷1.00)すると、39 mg/日となり、丸め処理を行って 40 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量換算係数 1.2 を乗じて 46.8 mg/日となり、丸め処理を行って 45mg/日とした。
多量ミネラル
カリウム
のアルカリ金属元素の一つである。カリウムは野菜や果物などに多く含まれているが、加工や精製度が進むにつれて含量は減少する。
細胞内液の主要な陽イオン(K+)であり、体液の浸透圧を決定する重要な因子。
また、酸・塩基平衡を維持する作用がある。神経や筋肉の興奮伝導にも関与している 。
健康な人において、下痢、多量の発汗、利尿剤の服用の場合以外は、カリウム欠乏を起こすことはまずない。
日本人は、ナトリウムの摂取量が諸外国に比べて多いため、ナトリウムの摂取量の低下に加えて、ナトリウムの尿中排泄を促すカリウムの摂取が重要と考えられる。
また、近年、カリウム摂取量を増加することによって、血圧低下、脳卒中予防につながることが動物実験や疫学研究によって示唆されている。
妊婦(目安量)
妊娠期間中にお赤ちゃんの組織を構築するためにカリウムが必要であり、この必要量を 12.5 g と推定した報告がある。
これを9か月の間に必要とすると、1日当たりの必要量は 46 mg/日となる。
この量は通常の食事で十分補えることから、非妊娠時以上にカリウムを摂取する必要はない。
平成28 年の国民健康・栄養調査における妊婦のカリウム摂取量の中央値は、1,782 mg/日である。
一方、妊娠可能な年齢における非妊娠時の目安量は、2,000 mg/日である。これらを考慮し、妊婦の目安量を 2,000 mg/日とした。
授乳婦(目安量)
授乳婦については、平成 28 年の国民健康・栄養調査ではカリウム摂取量の中央値は 2,124 mg/日であり、この値はカリウム平衡を維持するのに十分な摂取量であると考え、丸め処理をし、目安
量を 2,200 mg/日とした。
カルシウム(Cα)
カルシウムは、体重の 1〜2% を占め、その 99% は骨及び歯に存在し、残りの約 1% は血液や組織液、細胞に含まれている。
カルシウムの欠乏により、骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化などを招くことがある。
カルシウムの過剰摂取によって、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、泌尿器系結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが生じる可能性がある。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
新生児の身体には約 28〜30 g のカルシウムが含まれており、この大半は妊娠後期に母体から供給され、蓄積される。
一方、妊娠中は母体の代謝動態が変化し、腸管からのカルシウム吸収率は著しく増加する。
日本人を対象とした出納試験でも、カルシウム吸収率(平均±標準偏差)は、非妊娠時 23±8% に対し、妊娠後期には見かけ上、42±19% に上昇していた 82)。その結果、
カルシウムは胎児側へ蓄積され、同時に通常より多く母体に取り込まれたカルシウムは、母親の尿中排泄量を著しく増加させることになる。そのため、付加量は必要がないと判断した。
なお、2011 年に発表されたアメリカ・カナダの食事摂取基準も、この考え方を採用している。
しかし、カルシウム摂取量が不足している女性(500 mg/日未満)では、母体と胎児における骨の需要に対応するために付加が必要である可能性も報告されている。
日本人の食事摂取基準でも、推奨量未満の摂取の女性は推奨量を目指すべきであり、非妊娠時に比べると付加することになるともいえる。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳中は、腸管でのカルシウム吸収率が非妊娠時に比べて軽度に増加し、母親の尿中カルシウム排泄量は減少することによって、通常よりも多く取り込まれたカルシウムが母乳に供給される。
そのため、付加量は必要がないと判断した。
マグネシウム
骨や歯の形成並びに多くの体内の酵素反応やエネルギー産生に寄与している。
生体内には約 25 g のマグネシウムが存在し、その 50〜60% は骨に存在する。
長期にわたるマグネシウムの不足が、骨粗鬆症、心疾患、糖尿病のような生活習慣病のリスクを上昇させることが示唆されているが、更なる科学的根拠の蓄積が必要。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
1日当たりのマグネシウム付加量は 31.5 mg となり、丸め処理を行って 30 mg となる。
これを妊娠期の推定平均必要量の付加量とした。推奨量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じた値とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
授乳婦については、母乳中に必要な量のマグネシウムが移行しているにもかかわらず、授乳期と非授乳期の尿中マグネシウム濃度は同じであるため、授乳婦にマグネシウムを付加する必要はないと判断した。
リン
リンは、有機リンと無機リンに大別できる。成人の生体内には最大 850 g のリンが存在し、その 85% が骨組織に、14% が軟組織や細胞膜に、1% が細胞外液に存在する。
の核酸や細胞膜リン脂質の合成、細胞内リン酸化を必要とするエネルギー代謝などに必須の成分。
リンは多くの食品に含まれており、通常の食事では不足や欠乏することはない。
一方、食品添加物として多くのリンが用いられており、国民健康・栄養調査などの報告値よりも多くのリンを摂取していることも考えられる。
慢性腎臓病ではリン摂取の制限も考慮されている。
したがって、不足や欠乏の予防よりも、過剰摂取の回避が重要といえる。
妊婦(目安量)
出生時の総リン量は 17.1 g との報告がある。
これを非妊娠時の摂取に加えて摂取すべき量と考えると、1日当たり 61 mg/日となる。
一方、妊娠時のリンの吸収率は 70%、非妊娠時は 60〜65% との報告がある。
そこで、18〜29 歳の目安量(800 mg/日)に吸収率(70%、60%)を乗じると、リン吸収量はそれぞれ 560 mg/日、480 mg/日となる。
この差(80 mg/日)は上記の 61 mg/日を上回っているため、非妊娠時の摂取量に加えてリンを多く摂取する必要はないと判断できる。
授乳婦(目安量)
授乳婦の血清リン濃度は、母乳への損失があるにもかかわらず高値であり、授乳婦ではリンの骨吸収量の増加と尿中排泄量の減少が観察されていることから、非授乳時の摂取量に加えてリンを摂取する必要はないと判断できる。
微量ミネラル
鉄(Fe)
食品中の鉄は、たんぱく質に結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられる。
肉や魚に含まれるものを「ヘム鉄」、ひじきやほうれん草、プルーンなどに含まれるものを「非ヘム鉄」といいます。ヘム鉄の方が圧倒的に吸収率がよくなっています。
ヘム鉄
肉や魚に含まれるものを「ヘム鉄」、ひじきやほうれん草、プルーンなどに含まれるものを「非ヘム鉄」といいます。ヘム鉄の方が圧倒的に吸収率が良い。
ヘム鉄
- 肉や魚に含まれる
- 吸収率が高い(10~20%)
非ヘム鉄
- 野菜や穀類に含まれる
- 吸収率が低い(2~5%)
最近の鉄同位体を用いた研究では、ヘム鉄の吸収率を 50%、非ヘム鉄の吸収率を 15% としている。
鉄の吸収率は、食事中のヘム鉄と非ヘム鉄の構成比、鉄の吸収促進、阻害要因となる栄養素や食品の摂取量及び鉄の必要状態によって異なる。
そのため、吸収率の代表値を設定することは困難であるが、日本人の鉄の主な給源が植物性食品であり、非ヘム鉄の摂取量が多いことを考慮して、FAO/WHO が採用している吸収
率である 15% を、妊娠女性を除く全ての年齢区分に適用した。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊娠期に必要な鉄は、基本的鉄損失に加え、①赤ちゃんの成長に伴う鉄貯蔵、②臍帯・胎盤中への鉄貯蔵、③循環血液量の増加に伴う赤血球量の増加による鉄需要の増加、があり、それぞれ、妊娠の
初期、中期、後期によって異なる。
全妊娠期間の鉄需要増加を合計で 300 mg と仮定した。
さらに、その需要のほとんどが、中期と後期に集中し、両期間における差はないと考えた。
以上より、妊娠に伴う鉄の必要量の合計値を、妊娠初期 0.32 mg/日、中期 2.68 mg/日、後期 3.64 mg/日と算定した。
妊娠女性の鉄の吸収率を、初期は非妊娠期と同じ 15%、中期と後期は 40% とすると、必要量を満たす摂取量は初期 2.1 mg/日、中期 6.7 mg/日、後期 9.1 mg/日となる。
数値の信頼度を考慮して中期と後期は分けず、両者の中間値(7.9 mg/日)を求め、丸めて初期2.0 mg/日、中期・後期 8.0 mg/日を推定平均必要量の付加量とした。
また、推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じ、丸め処理を行って、初期 2.5 mg/日、中期・後期 9.5 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
分娩後、鉄の吸収率は非妊娠時の水準に戻ることより、授乳婦の鉄の吸収率は非妊娠時と同じ 15% とした。
そして、母乳中鉄濃度の採用値(0.35 mg/L)、基準哺乳量(0.78 L/日)、吸収率(15%)から算定される 1.82 mg/日(0.35×0.78÷0.15)を丸めた 2.0 mg/日を授乳婦の推定平均必要量の付加量とした。授
乳婦の推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、ここで策定した推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて得られる 2.4 mg/日を丸めた 2.5 mg/日とした。
これらは、月経がない場合の推定平均必要量及び推奨量に付加する値である。
亜鉛(Zn)
亜鉛は、体内に約 2,000 mg 存在し、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布する。
亜鉛の生理機能は、たんぱく質との結合によって発揮され、触媒作用と構造の維持作用に大別される。
亜鉛欠乏の症状は、皮膚炎や味覚障害、慢性下痢、免疫機能障害、成長遅延、性腺発育障害などである。
我が国の食事性亜鉛欠乏症は、亜鉛非添加の高カロリー輸液施行時、低亜鉛濃度の母乳や経腸栄養剤 での栄養管理時に報告されている。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
妊婦の血清中亜鉛濃度は、初期 72.7 µg/dL、中期 63.8 µg/dL、後期 62.1 µg/dL、出産時63.3 µg/dL であり、妊娠期間が進むにつれて低下する。
このことから妊娠に伴う付加量が必要と判断される。
そこで、妊娠期間中の亜鉛の平均蓄積量(0.40 mg/日)61)を成人の一般的な吸収率(30%)で除して得られる 1.33 mg/日を丸めた1 mg/日を、妊婦への推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、1.33 mg/日に推奨量算定係数 1.2 を乗じて得られる 1.60 mg/日を丸めて2 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
母乳中の亜鉛濃度は分娩後、日数とともに低下することが知られている。
日本人の母乳中の亜鉛濃度に関しても、分娩後6〜20 日が 3.60 mg/L、21〜89 日が 1.77 mg/L、90〜180 日が 0.67 mg/L と推定できる報告がある。
これらを単純に平均した値(2.01 mg/L)を日本人の母乳中の亜鉛濃度の代表値として、0〜5か月児の基準哺乳量(0.78 L/日)を乗じると 1.57mg/日になる。
これを授乳婦の吸収率(53%)で除して得られる 2.96 mg/日を丸めた3 mg/日を授乳婦への推定平均必要量の付加量とした。
また、個人間の変動係数を 10% と見積もり、推定平均必要量(3 mg)に 1.2 を乗じると 3.6 mg/日となることから、授乳婦への推奨用の付加量は4 mg/日とした。
銅(Cu)
銅は、成人の体内に約 100 mg 存在し、約 65% は筋肉や骨、約 10% は肝臓中に分布する。
銅は、約10種類の酵素の活性中心に存在し、エネルギー生成や鉄代謝、細胞外マトリクスの成熟、神経伝達物質の産生、活性酸素除去などに関与している。
通常の食生活において過剰摂取が生じることはないが、サプリメントの不適切な利用に伴って過剰摂取が生じる可能性がある。
妊婦に特化した耐容上限量は設定しなかったが、妊娠中にはマンガン摂取が過剰にならないように注意すべきである。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
アメリカ・カナダの食事摂取基準では、胎児の銅保有量を 13.7 mg とみなしている。
また、安定同位体を用いた研究によると、銅の吸収率は 44〜67% となっている。
そこで、銅の吸収率を 55% とみなし、13.7 mg÷280 日÷0.55 より得られる 0.089 mg/日を丸めた 0.1 mg/日を妊婦の推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて得られる 0.107 mg/日を丸めて 0.1 mg/日とした。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
日本人の母乳中銅濃度が、分娩後の各期において測定されている。
この報告の各期の測定結果から、分娩後0〜5か月の母乳中の銅濃度の平均値は 0.35 mg/L と算出できる。
授乳婦の推定平均必要量の付加量は、この分娩後0〜5か月の日本人の母乳中銅濃度の平均値(0.35 mg/L)、基準哺乳量(0.78 L/日)4,5)、銅の吸収率(55%)を用いて、0.35×0.78÷0.55 より得られる0.496 mg/日を丸めた 0.5 mg/日とした。
推奨量の付加量は、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2 を乗じて得られる 0.596 mg/日を丸めて 0.6 mg/日とした。
ヨウ素
人体中ヨウ素の 70〜80% は甲状腺に存在し、甲状腺ホルモンを構成する。ヨウ素を含む甲状腺ホルモンは、生殖、成長、発達等の生理的プロセスを制御し、エネルギー代謝を亢進させる。
また、甲状腺ホルモンは、胎児の脳、末梢組織、骨格などの発達と成長を促す。
慢性的なヨウ素欠乏は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌亢進、甲状腺の異常肥大、又は過形成(いわゆる甲状腺腫)を起こし、甲状腺機能を低下させる。
妊娠中のヨウ素欠乏は、死産、流産、胎児の先天異常及び胎児甲状腺機能低下(先天性甲状腺機能低下症)を招く。
重度の先天性甲状腺機能低下症は全般的な精神遅滞、低身長、聾唖、痙直を起こす。
また、重度の神経学的障害を伴わず、甲状腺の萎縮と線維化を伴う粘液水腫型胎生甲状腺機能低下症を示すこともある。
妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
新生児の甲状腺内ヨウ素量は 50〜100 µg であり、その代謝回転はほぼ 100%/日である。
この中間値である 75 µg/日を妊婦への推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 20% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量の算定係数 1.4 を乗じて 110µg/日とした。
非妊娠女性の推定平均必要量にこの付加量を加えた 170 µg/日は、5人の妊婦を対象とした試験で得られた出納を維持できる摂取量(約 160 µg/日)114)を上回っている。
授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
日本人の母乳中ヨウ素濃度は諸外国に比較して高いが、この母乳中の高ヨウ素濃度は授乳婦の高ヨウ素摂取に起因したものであり、高ヨウ素濃度の母乳分泌に対応して、授乳婦がヨウ素摂取量を
増やす必要はない。
一方、WHO は妊婦と授乳婦に関して、ヨウ素の推奨摂取量を 250 µg/日としている 115)。
以上より、授乳によって失われるヨウ素を補うには、0〜5か月児の目安量である 100 µg/日で十分と考え、推定平均必要量の付加量を 100 µg/日とした。
そして、推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 20% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数1.4 を乗じて 140 µg/日とした。
妊婦・授乳婦(耐容上限量)
妊娠中はヨウ素過剰への感受性が高いと考えられるため、妊婦は非妊娠女性よりもヨウ素の過剰摂取に注意する必要がある。
同様に、授乳婦についても母乳のヨウ素濃度を極端に高くしない観点から、ヨウ素の過剰摂取に注意する必要がある。
以上より、妊婦と授乳婦の耐容上限量は、成人女性の耐容上限量(3 mg/日)に不確実性因子 1.5 を用いて2 mg/日とした。
耐容上限量は、習慣的なヨウ素摂取に適用されるものである。
成人の場合、昆布を用いた献立を摂取することに起因する 10 mg/日程度までの高ヨウ素摂取が間欠的に出現することは問題ないが、1週間当たり 20 mg 程度までに留めることが望まれる。
なお、海藻類を食べない日本人集団のヨウ素摂取量が平均で 73 µg/日にすぎないと報告されていることから、意図的に海藻類の摂取忌避を継続することは、いずれの年齢層においてもヨウ
素不足につながる。
したがって、ヨウ素摂取を適正に保つには、昆布を始めとする海藻類を食生活の中で適切に利用することが重要である。
セレン(Se)
セレンは、たんぱく質(セレノプロテイン)として生理機能を発現し、抗酸化システムや甲状腺ホルモン代謝において重要である。
セレン欠乏症は、心筋障害を起こす克山病(Keshan disease)、カシン・ベック病(KashinBeck disease)などに関与している。
また、完全静脈栄養中に、血漿セレン濃度の著しい低下(9 µg/L)、下肢筋肉痛、皮膚の乾燥・薄片状などを生じた症例 、心筋障害を起こして死亡した症例などが報告され、セレン欠乏症と判断された。類似症例は、我が国でも報告されている。
セレン含有量の高い食品は魚介類であり、植物性食品と畜産物のセレン含有量は、それぞれ土壌と飼料中のセレン含有量に依存して変動する 。
日本人は魚介類の摂取が多く、かつセレン含量の高い北米産の小麦と家畜飼料に由来する小麦製品や畜肉類を消費しているため、成人のセレンの摂取量は平均で約 100 µg/日に達すると推定されている 。
セレンの場合、我が国の通常の食生活において過剰摂取が生じる可能性は低いが、サプリメントの不適切な利用に伴って過剰摂取の生じる可能性がある。
妊婦・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
セレンの栄養状態が適切であれば、体重1 kg 当たりのセレン含有量は約 250 µg と推定されている。
最近の我が国の出生時体重の平均値である約 3 kg の胎児を出産する妊婦の場合、胎盤(胎児の約6分の1の重量)を合わせた約 3.5 kg に対して必要なセレンは約 900 µg となる。
さらに、セレンは血液中にも 170〜198 µg/L(平均 184 µg/L)含まれており 162)、妊娠中に生じる血液体積の 30〜50% の増加についても考慮する必要がある。
体重当たりの血液量を 0.075 L/kg 8)とすると、18〜29 歳女性の参照体重 50.3 kg の女性で 1.1〜1.9 L の血液増加になるので、これに血液中セレン濃度を乗じると血液増加に伴って必要となるセレンは約 300 µg となる。
したがって、両者を合わせた約 1,200 µg が妊娠に伴って必要なセレン量となる。
食事中セレンの吸収率を 90% 147)、妊娠期間 280 日として1日当たりの量(1,200/0.9/280)を算定し、得られた4.76 µg/日を丸めた5 µg/日を、妊婦における推定平均必要量の付加量とした。
また、推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2を乗じた値(5.71 µg/日)を丸めた5 µg/日とした。
日本人の母乳中セレン濃度に関する研究は、互いに近似した値を報告している。
これらの中で、4,000 人以上を対象とした報告の平均値(17 µg/L)を日本人の母乳中セレン濃度の代表値とした。
この値と基準哺乳量(0.78 L/日)、食品中セレンの吸収率(90%)に基づき、得られた 14.7 µg/日(17×0.78/0.90)を丸めた 15 µg/日を授乳婦における推定平均必要量の付加量とした。
推奨量の付加量は、個人間の変動係数を 10% と見積もり、推定平均必要量の付加量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて得られる 17.7 µg/日を丸めた 20 µg/日とした。